チェイス(Chase)
ビル・チェイス(トランペット)を中心に結成された“ブラスロックバンド”です。
活動期間は1970年~1974年
“チェイス”というバンド名は、
- リーダーの「ビル・チェイス(Tp)」からとったもの
- 音楽用語の”チェイス(フレーズの追いかけっこの意味)”
の2説あるのですが、音源を聞いた限りでは、フレーズの追いかけっこはあまり聴けないので、
- リーダーの「ビル・チェイス(Tp)」からとったもの
の方が有力でしょう。
ま、それよりも、チェイスと言うバンドは“ブラスロックバンド”の中でも異色の存在です。
なんといっても、ホーンセクションが
トランペット4本
なんですから。普通はホーンセクションというと、低音を補うために、トロンボーンやサックスが入るものなのですが、チェイスは
トランペット4本
なんです。すごい極端な編成ですね。
でも、だからこそ、管理人、今回のタイトルに自信を持って「トランペットヒーロー」とつけました。
聴いてみればわかるんですが、めっちゃカッコいいんですよ!トランペット4本のサウンドが。
それでは、これからチェイスの事を話していきます。
チェイスの生い立ち
チェイスの生い立ちを話すにあたって、絶対に挙げなければいけないバンドがあります。そのバンドとは、
アイズ・オブ・マーチ
(リーダー兼ボーカル ジム・ピータリック。この名前覚えておいてください。後の「チェイスと言うと音楽性よりも真っ先に言われること」の章で彼の名前が再び出てきます。)
1966年、アメリカ、イリノイ州で結成されたバンド。ロックサウンドに”ブラス”をフューチャ-した、いわゆる、
- ブラスロックバンド
です。1970年「Vehcle(ビークル)」のヒットで、当時活躍していたブラスロックバンド、
- シカゴ
- ブラッド・スエット・アンド・ティアーズ
と双璧をなす存在でした。その時に関わったプロデューサーが、
- フランク・ランド
- ボブ・デストッキ
の2名。
ところが、アイズ・オブ・マーチは「Vehcle(ビークル)」のヒットのみで、人気は尻すぼみになっていきます。
そこで、
- フランク・ランド
- ボブ・デストッキ
の2名が「ブラスロックよもう一度」と、ビル・チェイスに目をつけ、その他、腕利きのミュージシャンを集めて結成したのが
チェイス
と言われています。
- アイズ・オブ・マーチの「Vehcle(ビークル)」
- チェイスの特に1stアルバム「Chase(特にオープン・アップ・ワイドがオススメ)」
を聴き比べてみれば分かりますが、
チェイスの方が格段にサウンドがパワーアップしています。このサウンドを引っ提げて、チェイスは音楽界にデビューしたのです。
チェイスの魅力とは
チェイスの魅力はというと
- トランペット4本ならではの鋭い音、高音を駆使したフレージング
- ジャズ畑出身とは思えない荒々しいトランペットの音色
- “いい意味”でジャズを感じさせないリズムセクション
- トランペットだけじゃない 編曲者としてのビル・チェイスのスキル
でしょうか。1つずつ説明していきましょう。
トランペット4本ならではの鋭い音、高音を駆使したフレージング
トロンボーン、サックスが入っていないことで、「低音が薄い」と思われがちですが、実際聴いてみると、そんなこと微塵も感じさせません。
各トランペッターの音色自体意外と太いですし、むしろトランペット4本だからこそ可能な
- 鋭い音色
- 高度な技術に裏付けられた高音を駆使したフレージング
- スピーディかつスリリングなフレージング
がたまりません。
ソロをリードトランペットのビル・チェイスが主に担当するので、他の3人はあまりクローズアップされませんが、他の3人も気持ちいいほどビュンビュンと高音のアンサンブルをこなしています。
ここまで行くと、トロンボーン、サックスがいたらむしろ「邪魔」とすら感じてしまいますね。
ジャズ畑出身とは思えない荒々しいトランペットの音色
リードトランペットのビル・チェイスは、
- ウディ・ハーマン楽団
- スタン・ケントン楽団
- メイナード・ファーガソン楽団
で、トランペットを務めていた“ジャズ畑出身”のトランぺッターという事が分かっているのですが、他の3人、
- テッド・ピアースフィールド(ボーカルも兼任)
- アラン・ウェア
- ジェリー・ヴァン・ブレア(ボーカルも兼任)
後にビル・チェイス以外のトランペット3人がメンバーチェンジしているので、
- ジェイ・ソーレンバーガー
- ジョー・モーリセイ
- ジム・オァッツ
都合6人ですね。この6人のトランぺッターに関しては、調査しても音楽歴がわからない状況です。
- チェイス以前も
- チェイス以後も
そして、
- ジャズ畑出身なのかも
ただ、層の厚いアメリカの音楽界で生き残り、チェイスのメンバーにスカウトされた位なので、それなりの腕は持っているのでしょうが…。だからこそ、
ジャズ畑出身とは思えない荒々しいトランペットの音色
を実現しているのでしょうね。
“いい意味”でジャズを感じさせないリズムセクション
チェイスと言うと、ブラスロックバンドの中でも”ジャズ色の強いバンド”。もっというと
ジャズとロックを高次元で結びつけたバンド
という事で、ロック系の人の支持はもちろん、ジャズ系の人の支持も集めています。特に
3枚目のアルバム「Pure Music」はジャズ色が強いですね。
でも、1枚目のアルバム「Chase」は結構ロック色が強いです。理由を調査してみると、
- ジェイ・バリッド(ドラム)は、ジャズ系のビートが苦手
- エンジェル・サウス(ギター)は、どちらかというとロック寄りのプレイヤー
だったようで、それがロック色を強める理由だったようです。
トランペットだけじゃない 編曲者としてのビル・チェイスのスキル
ビル・チェイスは、トランペットプレーヤーとしてだけではなく、チェイスの曲の編曲にも多く関わっています。
もちろん、他のバンドメンバーも関わって協力することで、チェイスの”あの”サウンドが出来上がっているのですが。
- ロックをやるなら良質なロックをやらねばならない
- ジャズをやるなら良質なジャズをやらねばならない
というビル・チェイスの信念のもと、ロック、ジャズ、どちらもスポイルすることなく、妥協のないロックジャズサウンドを生み出していることには、本当に頭が下がります。
しかし、ビル・チェイスというトランぺッター
- テクニックも申し分なし
- 編曲のスキルもすごい
- そして、ロックとジャズを融合した新しいサウンドを作るという志の高さ
本当に惜しい人材でした…。なんであんな不運な亡くなり方をしたのか。本当に悔やまれます。
チェイスと言うと音楽性よりも真っ先に言われること
ブラスロックをちょっとかじって「チェイス」の名前が思い出せない人が共通して言う言葉があります。それは…、
「ブラスロックって言うと、居たよね、メンバーが飛行機事故で死んだバンド。なんて名前だっけ?」
そう、それがチェイスです。チェイスはメンバーを飛行機事故で亡くしています。
正確に言うと、3枚目のアルバム「Pure Music」の時に在籍していたメンバーで、全員ではなく、
- ビル・チェイス(トランペット)
- ウォーリー・ヤーン(キーボード)
- ウォルター・クラーク(パーカッション)
- ジョン・エンマ(ギター)
の4人と乗務員2人の計6人が亡くなりました。
リーダーのビル・チェイスが亡くなったことで、チェイスは消滅しました。解散ではなく消滅です。
ビル・チェイスの代わりになる人がいるわけないので当然ですね。
「ブラスロックって言うと、居たよね、メンバーが飛行機事故で死んだバンド。なんて名前だっけ?」
この話を専門学校でしていたのが、今から30年前のこと。ビル・チェイスは当時存命していれば50代ちょっと、まだまだ現役で吹ける年齢です。
「生きていたら、どんなプレイ見せてくれてたのか、どんなバンド組んでいたのかな…」
なんて話を、専門学校時代の友人とした覚えがあります。
音楽性が高く評価されていたバンドだけに、このような形で消滅したことは非常に悔やまれます。
ここで、チェイスの生き残ったメンバーについて有名な話をしておきましょう。
- デニス・ジョンソン(ベース)が生き残りました
- ジム・ピータリック(ボーカル)が生き残りました
ジム・ピータリックは「チェイスの生い立ちの章」で出てきた、元アイズ・オブ・マーチのリーダー兼ボーカルのジム・ピータリックで、
後にジム・ピータリックがデニス・ジョンソン誘い、結成したのが「サヴァイヴァー」というバンドです。
サヴァイヴァーは、1982年に映画”ロッキー3″の挿入歌「Eye of The Tiger」という曲をヒットさせました。
日本だと「ロッキー3」の挿入歌というよりは、TBSテレビ「オールスター感謝祭」で行う”マラソンのラスト一周”でかかる曲と言った方がなじみ深いですね。
但し、「Eye of The Tiger」リリースの時には、デニス・ジョンソンはすでにサヴァイヴァーを脱退しており、関わっていません。
(ジム・ピータリックは、「Eye of The Tiger」リリース時も在籍しています。)
チェイスの残した3枚のアルバムについて
チェイスは結成から消滅までに3枚のアルバムをリリースしています。
それを紹介していこうと思います。但し、管理人、チェイスの曲に関してはどれを聴いても、
気持ちいい~!
という感想しか出ず、サウンドの細かい分析はできませんでした。
という事で、お勧めの曲という感じで挙げています。どうぞ読んでやってください。
Chase-邦題チェイス-
チェイスの記念すべき1作目のアルバム。
最初からイケイケです。「OPEN UP WIDE」のキレたサウンドに恐れおののいてください(笑)
「GET IT ON」は説明不要、チェイスを聴くのが初めてならばこの曲をお勧めします。終わり方が秀逸。
どれもいい曲揃いなので、どれを選ぶかといわれると迷うところですが、強いてあげるとすれば、「LIVIN’IN HEAT」ですね。イントロのパンチのあるホーンセクションが気持ちいいです。
INVITATION TO A RIVER(組曲)は組曲という事で敷居が高そうな感じがしますが、聴いてみると良質なジャズという感じですね。
曲目
- OPEN UP WIDE
- LIVIN’IN HEAT
- HELLO GROCERIES
- HANDBAGS AND GLADRAGS
- GET IT ON
- BOYS AND GIRLS TOGETHER
- INVITATION TO A RIVER(組曲)
- TWO MIND MEET
- STAY
- PAINT IT SAD
- REFELECTIONS
- RIVER
ENNEA-邦題 ギリシャの神々-
チェイスの2枚目のアルバム、メンバーチェンジという不安定要素を抱えながら、パワーは衰えるどころか、むしろ1枚目よりパワーアップしているようにさえ感じます。
これも、どれがお気に入りかと言われると非常に難しい。1枚目の「Chase」に比べて格段にパワーアップしているサウンドは、聴いててスカッとした気持ちにさせてくれます。
あえて挙げるなら
- Swanee River
- It Won’t Be Long
ですかね。
「Swanee River」はチェイスのサウンドがが弾けてるという表現がピッタリ。スカッとする曲です。
「It Won’t Be Long」はチェイスには珍しいメロウな曲。トランペットアンサンブルがとても美しいです。
Ennea(組曲)はチェイスのリズム隊を堪能できる曲。変拍子も多く、腰を据えて聴くべき曲ですね。
但し、ジャズ慣れしていない人には退屈かも知れません。
曲目
- Swanee River
- So Many People
- Night
- It Won’t Be Long
- I Can Feel It
- Woman Of The Dark
- Ennea(組曲)
- Cronus (Saturn)
- Zeus (Jupiter)
- Poseidon (Neptune)
- Aphrodite Part I (Venus)
- Aphrodite Part II (Venus)
- Hades (Pluto)
PURE MUSIC-邦題 復活-
前2作で第1次チェイスが終わり、メンバーも変わり、第2次チェイスの出発となったアルバム。リズムセクションが聴きごたえあります。
サウンドアプローチが大きく変わり、
- シンセサイザーの大幅な導入
- トランペットにもエフェクターをかけている
- ノリの良い曲よりは、じっくり聴きこむタイプの曲が多い
どちらかというとロックよりは、ジャズ・フュージョンと言った方が似合いそうな感じです。
でも、チェイスのサウンドの“幹の部分”は前2作と変わっていないという印象を管理人は受けました。
お勧めは「Twinkles」ですね。スローな曲。前2作では聴けなかったビル・チェイスの泣きのトランペットソロが聴けます。
曲目
- Weird Song #1
- Run Back To Mama
- Twinkles
- Bochawa
- Love Is On The Way
- Close Up Tight
チェイスの「Get it On」に影響を受けた楽曲
チェイスの「Get it On(邦題 黒い炎)」。
- チェイスの1stシングルであり
- チェイス最大のヒット曲
文字通り、チェイスの“看板”といえる曲です。ロックファンだけではなく、ジャズファンにもこの曲の支持者は大勢います。
それだけに、この「Get it On」という曲、後に出てくる曲に、かなりの影響を与えています。
- フレーズを使用されたりとか(ひどいのになるとほぼパクリorz)
- 雰囲気をまねたりとか
されているんです。不確実情報も含め、挙げてしまえばキリがないのですが、管理人が調査した限りで、確実に見つけたものを紹介しましょう。
アニメ「ナジカ電撃作戦」オープニングのサビ
2001年10月~12月まで、放映されたセクシー系スパイアクションアニメ。
演奏は元スペクトラムトランペット兼崎”どんぺい”順一(当時)率いるビッグバンド「江古田勉強会(えこだべんきょうかい)」。
スペクトラムに関してはこちらに詳しく書きましたので、ご覧ください。
⇒スペクトラムというバンド!管理人のトランペットヒーローその2
パクってはいないんですが、
- フレーズのニュアンスだとか
- 掛け合い具合だとか
が極めて似ています。ただ、ビッグバンド編成なので、ホーンセクションの厚さはさすがです。
ブラックビスケッツの「リラックス」という曲のホーンフレーズ
日本テレビ「ウッチャンナンチャンのウリナリ」という番組内で作られた企画もの音楽ユニット。
- 南原清隆(ナンチャン)
- ビビアン・スー
- 天野ひろゆき(キャイーン)
がメンバーです。もうこちらは…、
ホーンのフレーズ、モロ”パクリ”ですorz
もはや著作権者に許可もらっているのか聞きたくなるレベルです。ハイ(汗)
TOPSというバンドの「Get it On」
まあ、これは「Get it On」を正式にカバーしているものなので、問題はないです。
- チェイスの「Get it On」
- TOPSの「Get it On」
どちらを聴くかは好みの問題ですね。ちなみに管理人は、昔はTOPSの「Get it On」の方が好きでした。
丁度、TOPSの「Get it On」がリリースされていた時に、エレクトリックなサウンドにはまっていたので。
今は、チェイスの「Get it On」ですね。荒々しいトランペットアンサンブルに惚れ直しました。
そういえば、ちょっとトランペット吹きにしか分からない話になるのですが、チェイスの「Get it On」の間奏部
シェイク(速いリップスラーの事)している部分があるんですが、音を聴いている限り
ミドルAからハイC(共にinB♭)へ移動してるんですよね。
ところがトランペット吹く人はわかると思うんですけど、
この2音には共通する指使いが無いんです。
管理人もいろいろ指使い試したんですが、出せませんでした。どうやって出してたんでしょうね? 知りたいところです。
ちなみにTOPSはこの部分のシェイクを、ハイCからハイD(共にinB♭)へ変えて演奏していました。
番外編 渡辺宙明
渡辺宙明とは、特に’70年代~’80年代に男子向けアニメ、特撮のサウンドトラックで活躍した作曲家で、
ブラスを効果的に使ったサウンドで、2017年現在も男子向けアニメ、特撮のサウンドトラックの世界ではカリスマ的人気を誇っています。
(ちなみに管理人も大ファンです。特に特撮“宇宙刑事シリーズ”のサウンドトラックにしびれます。)
何の本で見たかは忘れましたが、本の中のインタビューで、
「特に’70年代はブラスロックに影響を受けていて、自分が手掛けるサウンドトラックにどう取り入れようかと考えていた。」
という様なことを言っています。特にチェイスと明言はしていませんが、曲を聴く限りチェイスの影響も少なからず受けてますね。
渡辺宙明が初めて男子向け特撮シリーズに関わったのが、「人造人間キカイダー」のサウンドトラック。
管理人、「渡辺宙明BGMコレクション」というオムニバスCDを持っていて、その中に「人造人間キカイダー」のサウンドトラックも一部入っているんですが、
それがモロにブラスロックの影響を受けています。チェイスの「Get it On」らしきフレーズも見かけられます。
それと、渡辺宙明作曲の、アニメ「グレートマジンガー(1974~1975)」のオケがモロにブラスロックです。
特にホーンセクションと、パーカッシブなオルガンの掛け合いが気持ちよく、聴くたびに管理人思わずニンマリしてしまいます。
最後に
いかがでしたでしょうか。
- チェイスの魅力とは
- チェイスと言うと音楽性よりも真っ先に言われること
- チェイスの「Get it On」に影響を受けた楽曲
- トランペットだけじゃない 編曲者としてのビル・チェイスのスキル
について書いてきました。
冒頭で触れていますがチェイスの活動期間は1970年~1974年。
実はチェイスがデビューした1970年頃には、「ブラスロック」人気は落ちかけていました。
どうしても、楽曲自体のクオリティよりも、演奏技術に注目がいってしまい、マニアック化し、一般聴衆が離れていってしまっていたのです。
でも、そんな決して良いとは言えない状況の中、チェイスはデビューし、「Get it On」のヒットを飛ばし、一躍人気バンドになったのです。
これは、チェイスのデビューに関わったプロデューサーコンビ
- フランク・ランド
- ボブ・デストッキ
の功績も大きいでしょう。トランペット4本の極端なホーンセクションも、このプロデューサーコンビのアイデアと言われてますから。
わずか4年の活動期間だったチェイス。飛行機事故でリーダーのビル・チェイスが亡くなり消滅。
終わり方は不幸以外の何物でもありませんでしたが、
- 華やかにデビューし
- 華やかに散り
伝説を残してくれました。そして、ビル・チェイスは、管理人含む多くのトランペット吹きのヒーローとなったのです。
そして「Get it On」は吹奏楽用の楽譜も出版され、吹奏楽界でも演奏される曲になりました。
チェイスと言うバンド。これからも後世に伝えていきたいですね。
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